被爆の実相を次世代に伝える/はだしのゲンをひろめる会

   被爆の実相を次世代に伝えるため、漫画「はだしのゲン」を国内外に普及・寄贈しているNPO法人はだしのゲンをひろめる会の取り組みが、全国保険医団体連合会発行の「月刊保団連」2015年8月号に被爆70年の特集記事として掲載されました。「月刊保団連」は全国各地の保険医協会会員対象に発行されており、発行部数は10万部を超えています。本誌を講読された方々からの本会へのご支援に期待しています。

 

月刊保団連 2015年8月号

 

被爆の実相を次世代に伝える

漫画『はだしのゲン』(原作/中沢啓治)をひろめる会の取り組み

NPO法人はだしのゲンをひろめる会理事

神田 順一

  • 核兵器の残酷さと平和の大切さを描いた漫画『はだしのゲシ』を小中学校に寄贈する活動を進めている核戦争を防止する石川医師の会(石川県保険医協会は事務局団体)、『はだしのゲン』翻訳ボランティアグループのプロジェクト・ゲン(金沢市)、毎年夏に〝ピース・デー〟と〝原爆と人間展〟を実行委員会方式で続けている石川県生活協同組合連合会の3団体有志が呼びかけて設立した「NPO法人はだしのゲンをひろめる会」取り組みを報告する。
  • 平和教育に関する自治体・教育委員会との連携や島根県松江市教育委員会等による閲覧制限ヘの対応、海外への普及活動など、各地で新しい事業が展開されることを期待したい。

 

 核戦争を防止する石川医師の会の『はだしのゲン』寄贈運動

 核戦争を防止する石川医師の会(以下、石川反核医師の会)は核被害の実相を理解することが核兵器廃絶運動の原点にあると、毎年の総会記念事業は市民公開で被爆証言を聴く会や被爆の実相を理解するための映画会や講演会を開催している。被爆の実相を伝えていく上では、広島での被爆体験をもとに中沢啓治氏が描いた漫画『はだしのゲン』は、特に大きな役割を果たしている。

 石川反核医師の会が県内すべての小中学校に平和教育の図書として『はだしのゲン』を普及しようと最初に金沢市教育委員会に相談したところ、学校への所蔵状況と寄贈希望調査は任意団体では回収率がよくないだろうと、教育委員会として調査してもらえることになった。このような対応があり、各地の教育委員会にも声かけしやすくなった。

 2011年9月から始めた寄贈運動は、金沢市同様に各教育委員会の協力を得てこれまで県内7自治体(金沢市、野々市市、内灘町、七尾市、能美市、輸島市、中能登町)に日本語版64セット、英語版2セットを寄贈した。寄贈は、学校医にお願いしたり、石川反核医師の会代表が教育委員会に届ける方法で行っており、県内すべての自治体への普及・寄贈をめざしている。

 市内小中学校8校それぞれへ『はだしのゲン』1セツトを寄贈した能美市では、市教育委員会から「本作品は戦争の悲惨さと平和の尊さを学ぶ貴重な資料として、能美市としてもぜひ子どもたちに読ませたいと考えております。過去の歴史をふり返り、明るい未来を創造していく平和教育の資料として、またとない御恵与のお品と心より感謝申し上げる次第でございます」「寄贈いただいた『はだしのゲン』は、さらに子どもたち一人一人が未来を見つめる、すばらしいきっかけを与えてくださることと確信しております」とのお礼状が届いた。

 23カ国語に翻訳・出版

 ボランテイアグループのプロジェクト・ゲンは、『はだしのゲン』の英語版、ロシア語版に関する翻訳・画像の作成・編集を行い、1995年から活動を続けている。現在のメンバーは計15人。朗読劇「この子たちの夏」の翻訳が縁で最初にロシア語版の翻訳・出版に関わった浅妻南海江氏(金沢市)が代表を務めている。浅妻氏らは画像データ作成の過程で漫画の吹き出しにさまざまな言語を入れることでマルチリンガル(多言語)になると確信して、ロシア語版の次に翻訳ボランテイアを募って英語版を作成した。その後もさまざまな言語で翻訳・出版ができるよう、プロジェクト・ゲンが作成した約2600枚の画像データは他言語にも使用されており、これまで23カ国語に翻訳・出版されている。

 浅妻代表宅には海外からたくさんの読後感想が寄せられている。英語版を読んだ米国の中学生からは「原爆は、とてつもない破壊力を持ち、恐ろしく不当な兵器です。私は核兵器廃絶が実現すると信じています。この本がいつでも外国の読者の手に入るように取りはからってください。世界が『はだしのゲン』を必要としています。中沢啓治さん、これらの本を書いてくださってありがとう。中沢さんは世界をよりよい方向に向かわせてくださいました」と書かれた手紙が届いた。

 はだしのゲンをひろめる会の設立と事業展開

 はだしのゲンをひろめる会(理事長=浅妻南海江。以下、「ひろめる会」)は県内3団体の有志の呼びかけで、2012年12月9日に設立総会を開き、取り組みを開始した。設立総会時には、原作者の中沢啓治氏は肺がんで入院中のため、奥さまの代筆でメッセージが寄せられた。

 「『はだしのゲン』が英語版や各国語に翻訳され始め、ゲンがはだしで世界を闊歩しています。ゲンは地球上を何百回も何千回もはだしで駆け巡り、愚かな戦争と核兵器を無くすために頑張る決心でございます。また、世界平和と核兵器反対が少しでも多くの人に理解されるよう『はだしのゲン』がしっかりと役目を果たしてくれることを願っています」

 このメッセージは、同年12月19日に逝去された中沢啓治氏の遺言となった。

 「ひろめる会」設立後に次の取り組みをすすめている。

(1)ホームページの開設

 「ひろめる会」の存在と活動を広報するためホームぺージの開設は必須であることから、県保険医協会や石川反核医師の会からの技術的な援助も受けて2013年8月1日に公開した(http://hadashinogen.jp/)。その存在が世間に知られるようになったのは、島根県の松江市教育委員会による小中学校の図書室での閲覧制限が大きく報道された同年8月17日以降である。

(2)『はだしのゲン』閲覧制限への対応

 松江市教育委員会の閲覧制限には、全国各地から2000件を超える抗議と撤回を求める声が殺到し、石川県から「ひろめる会」、石川反核医師の会、非核の政府を求める石川の会、治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟石川県本部が抗議文を送付した。全国各地からの抗議の広がりにより、松江市教委は閲覧制限を撤回したが、その後も各地の教育委員会や地方議会に、「新しい教科書をつくる会」や「在日特権を許さない市民の会」等から日本の侵略戦争を認めない特異な歴史観を押し付ける請願や陳情が続いている。

 2013年12月の金沢市議会でも自民党市議が「ゲンは反日教育につながるため教育現場に置くことは疑問」と質問したが、金沢市教育長は「ゲンの所蔵、閲覧等については、学校現場で認められて自主的にやってきたこれまでの方向性を尊重する」と答弁した。この質疑を傍聴していた浅妻理事長は、「学級文庫で『はだしのゲン』を読んだ子どもたちが、現在、社会の中核をなし、教育現場や報道機関でゲンを応援しており、閲覧制限は何ら恐れることはない」と感想を述べている。

 このような閲覧制限をめぐる動向をその都度、ホームページにアップし、メーリングリスト等を通じて拡散したことにより、アクセス件数が急増した。皮肉な巡り合わせである。

(3)紙芝居CD、英語版紙芝居を作成・普及

 2013年6月に金沢市内の図書館から紙芝居を借用して作成した『はだしのゲン』の紙芝居CD(絵16枚、文16枚のデータ)は、「ひろめる会」の人気グッズになっている。汐文社発行の紙芝居はすでに廃版になっており、中沢啓治氏の奥さま、ミサヨさんの了解を得て普及している。また2014年8月にプロジェクト・ゲンが作成した英語版紙芝居をもとに、英語版紙芝居CDも作成した。

(4)『はだしのゲン』寄贈実績

 「ひろめる会」は2013年5月にNPO法人の設立登記後、これまで実績のあるプロジェクト・ゲンやNPO法人ANT・Hiroshima、平和首長会議事務局、JICA中国などの協力を得て、12カ国の学校等に日本語版(10巻)13セット、英語版(10巻)38セット、ロシア語改訂版(1、2巻)16冊を寄贈している。

 寄贈先は、ウズベキスタン、米国、フイリピン、ネパール、アフガニスタン、ラトビア、ロシア、ベラルーシ、キューバ、パラオ、中国、ニュージーランドの教育機関や大使館、社会活動家等である。

 被爆70年を核兵器廃絶の転換点に―世界にはばたけ『はだしのゲン』

 潘基文国連事務総長は2015年NPT再検討会議に、「核兵器の廃絶のためには70年前の8月、核攻撃を生き延びた被爆者の体験に耳を傾け、核兵器が何をもたらすかよく知るべき」とのメッセージを寄せている。今回のNPT再検討会議の結果により、核保有国と「核の傘」依存国での市民社会の運動と世論の果たす役割がいっそう明らかになった。

 「ひろめる会」では、〝被爆70年を核兵器廃絶の転換点に〟を合言葉に開かれる原水爆禁止2015年世界大会・国際会議(8月2日~ 4日、広島会場)および被爆70周年・核被害者世界フォーラム(11月21日~ 23日、広島会場)の国際会議や平和首長会議事務局等を通じて、『はだしのゲン』を国内外に広く普及することにしている。これらの寄贈資金は会費や募金によってまかなっており、今後も世界中の人々にゲンの精神をひろめることができるよう、「ひろめる会」への支援を呼びかけている。

  最後に、浅妻理事長のコメントを紹介する。

 「『はだしのゲン』のテーマは原爆と麦である。麦は踏まれても踏まれても大地に根を張り、やがて豊かな穂を実らす。ゲンはいかに過酷な状況であっても麦のようにたくましく生き抜くことの大切さを読者に教えてくれる。それはとりもなおさず今なお困難な状況にある世界の若者、子どもたちに送るエールでもある」

 核廃絶を願いながら、世界中の子どもたちのもとへとかけめぐるゲンの旅を、ともに応援していただきたい。

〈「NPO法人はだしのゲンをひろめる会」連絡先〉

   Email : project-gen@msg.biglobe.ne.jp

(紙芝居CDの購入方法や「ひろめる会」賛助会員の入会方法はホームベージを参照)

 

 

 

はだしのゲン・紙芝居

出版物の紹介


はだしのゲン
『わたしの遺言』
 中沢啓治 著

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