世界核被害フォーラムで採択された「広島宣言」

世界核被害者フォーラム 広島宣言
(世界核被害者の権利憲章要綱草案)

2015
1123

1. われわれ、世界核被害者フォーラムに参加した者は、アメリカ政府による原爆投下70周年に当たる2015年の112123日に、ここ広島に集った。

2. われわれは、核被害者を以下のように定義する。すなわち、狭義では、原爆の被爆者、核実験被害者、核の軍事利用と産業利用の別を問わず、ウランの採掘、精錬、核の開発・利用・廃棄の全過程で生じた放射線被曝と放射能汚染による被害者すべてを含む。また、広義では、核時代を終わらせない限り人類はいつでも核被害者=ヒバクシャになりうることを認識して、核と人類は共存できないことをあらためて確認した。

3. われわれは、広島、長崎への原爆投下により、日本人だけでなく、日本の植民地支配と侵略を受けたためにその地にいた朝鮮半島、中国、台湾の人々や連合国の捕虜たちも犠牲になったこと、放射線・熱線・爆風で虐殺され、生存者も「地獄の苦しみ」を味わったことを想起した。また、われわれは、被爆者が、侵略戦争を遂行した日本政府の責任を問い、健康と生活の保障を権利として求め、法律で一定の補償を勝ち取ってきたこと、今なお被爆者が、「国家補償」を被爆者援護法に明記することを求め、被爆したのに、被爆者と認定されない者が権利を求めて闘っていること、核兵器廃絶に加え原発再稼働反対・原発輸出反対、原発事故被害者援護を求めて闘っていることを再確認した。

4. われわれは、2013年にオスロ、2014年にナジャリットとウィーンで開かれた「核兵器の非人道的影響に関する国際会議」の結果として、核兵器爆発が環境、気候、人間の健康、福祉、社会に破滅的な影響をもたらし人類の生存さえ脅かし、対処が不可能であるという認識が国際的に共有されたことを確認した。われわれは、核兵器の禁止と廃絶に向けた法的ギャップを埋めることを誓約し121カ国が賛同している「人道の誓約」を歓迎する。また、われわれは、201511月初旬には国連総会第1委員会(軍縮)で、「核兵器のない世界を実現し維持するために締結されるべき効果的な法的措置…および規範を実質的に取り扱う」公開作業部会を開催する決議が、賛成135カ国、反対は12カ国のみで採択されたことを支持する。

5. われわれは、ウラン採掘や精錬、核実験、核廃棄物の投棄が、いまもつづく植民地支配、差別抑圧の下で先住民族の権利-先祖代々の土地と関連する諸権利をふくむ-を侵害しながら強行され、被曝を強要されるとともに、環境を放射能で汚染され、人間生活の基盤をも奪われた核被害者を日々増やし続けていることを確認した。

6. われわれは、核の連鎖が環境を放射能で汚染し生態系を破壊して人間をふくむ生物にさまざまな放射線障害を引き起こしてきたこと、またチェルノブイリに続くフクシマの原発苛酷事故の体験から、原発周辺の広大な地域に住む住民と事故処理労働者が被曝させられること、この過酷事故への対処が不可能であること、さらにはグローバルな放射能汚染を引き起こすことを認識した。また、われわれは、「核の軍事利用」と「核の産業利用」が原子力産業を通じて密接につながっていること、さらに劣化ウランを使用した放射能兵器など核の連鎖が全過程で大量の核被害者を生みだしてきたことを認識した。

7. われわれは、核の連鎖があるかぎり放射能災害の発生を防ぐことはできず、増え続ける核廃棄物の処理・処分の見通しは全く立たないうえ、核汚染は長期にわたり、環境の原状回復は不可能ということから、人類は核エネルギーを使ってはならないと認識した。

8. われわれは、東京原爆訴訟判決(196312月)が米軍の原爆投下は国際法違反と認定したこと、国際司法裁判所が「厳格かつ実効的な国際管理のもとで、全面的な核軍縮に向けた交渉を誠実に行い、その交渉を完結させる義務がある」と勧告的意見(19967月)を表明したことを知っている。この勧告的意見に基づき、20144月、核実験の被害を受けたマーシャル諸島の人々の政府が、国際司法裁判所に、9つの核武装国に対して、提訴したことを支持する。

また、さらに、われわれは、核被害者世界大会が核保有国と原子力産業の犯罪責任を追及し(1987年ニューヨーク決議)、また軍産複合体に損害補償の責任を負わせるとしたこと(1992年ベルリン決議)を想起する。さらに、われわれは、「原爆投下を裁く国際民衆法廷・広島」がトルーマンを含む被告たち15名全員の有罪を確定したこと(20077月)を確認する。

9. われわれは、核エネルギー政策を推進した国家及び放射能汚染を引き起こした事業者と原発など核施設のメーカーはその株主、債権者が責任を負担することを含めて、加害に対して責任を負うこと、また、原発輸出は人権侵害と環境破壊をもたらす危険があることを主張する。

10. われわれは、国際原子力機関(IAEA)や国際放射線防護委員会(ICRP)が、これまで放射線被曝による被害について過小評価して原発事故などの本当の影響を隠蔽してきたことを弾劾する。また、われわれは、IAEAに与えられた「原子力の平和利用促進」権限の廃止を求める。

11. われわれは、核の利用により、人間の生存の基盤を破壊し、生き物すべての生存を侵害する原因を生み出した者が、軍産官学複合体およびこれを支援する国家であることを指摘する。また、われわれは、これらの軍産官学複合体の構成員の行動が国際人道法、国際環境法および国際人権法の根本原理を侵犯していることを主張する。

12. われわれは、日本政府が、フクシマ事故後も、反省するどころか、適切な事実及び被害調査をせず、被害の実相を隠蔽し矮小化しながら被害者への支援を切り捨てる一方で、原発の再稼動及び海外輸出を行っていることを糾弾し、日本及び世界各地の原発と産業用核施設の建設・運転並びに原発輸出に強く反対する。

13.  われわれは、ウラン採掘、精錬、核燃料の製造、原子力発電、再処理を中止し、核の連鎖を廃棄することを求める。

14. われわれは、核兵器を禁止し廃絶を命ずる法的拘束力ある国際条約を緊急に締結することを求める。

15. われわれは、劣化ウランを利用した兵器の製造・保有・使用を禁止することを求める。

16. われわれは、今回の世界核被害者フォーラムを契機として、核被害者の情報を共有し、芸術などを含むさまざまな方法やメディアなどの媒体で発信し、共に連帯して闘っていくこと確認した。

17.  われわれは、この世界核被害者フォーラムの成果をもとに以下の世界核被害者の権利憲章要綱草案を世界に発信するため、広島宣言を採択する。

 

世界核被害者の権利憲章要綱草案

[Ⅰ]核被害者の権利の基礎

  1.  自然界はすべての生命の基礎であり、人類を構成し文明を享受するすべて人間は個人として生命、身体、精神および生活に関する生来の平等な権利を有する。

2.  何人も恐怖と欠乏から免れ、平和で健康で安全に生きる環境への権利を有する。

3.  人類の各世代は、あらゆる生物の将来世代の利益を損なわないよう、持続可能な社会を享受する権利がある。

4.   国際連合憲章でうたう本来的な人間の尊厳と人民の自決権,世界人権宣言、国際人権規約その他の国際人権文書及び先住民族の権利の宣言など、これらの国際実定法が定める生命、健康と生存に関する諸権利、並びに生成途上にある人類の法の内容をなすべき慣習国際法の原則が存在する。

[Ⅱ]権利

(1)核時代に生きる何人も、現在と将来の核被害を防ぐために以下のことを求める権利を有する。

1.  自然放射線・医療用放射線以外の放射線被曝を受けないこと。

2.  被曝労働を強制しないこと。被曝労働が回避できない場合には、最小化すること。

3.  医療被曝を必要最小限に留めること。

4.  放射線被曝の危険性について、正確な情報を学校教育、社会教育を通して提供すること。情報には放射線被曝にリスクのないレベルはなく、とくに子どもや女性は被曝に対する感受性が高いことを含む。

(2)核被害者は次のことを求める権利を有する。

5.  人格権、健康権を含むあらゆる人権及び基本的自由に対する核被害者の国内法上の権利を認めること

6.  過去、現在と将来の被ばく(被爆・被曝)による健康影響に対する持続的な健康診断と最善の医療の提供を自己負担なく受けること。これには、被ばく(被爆・被曝)2世、3世および将来世代も含む。

7.  核利用の結果もたらされたすべての生命と健康、経済、精神、文化への被害について、加害者による謝罪と補償を求めること。

8.  放射能で汚染された土地、住居、地域社会の環境の回復および地域(民族)文化の再生を求めること。

9.  被ばく(被爆・被曝)状況について、加害者から独立した信頼できる科学的な調査と完全な情報公開を求め、この調査と個人情報に配慮しつつ情報管理とに被害者自身が参加すること。

10.  放射能汚染地への帰還を強制されないこと。被曝地から避難するか被曝地に留まるかの選択の自由が保障されること、いずれの選択をした場合でも、できる限り被曝を避け、健康を守り、生活を維持、再建できる支援を受けること。

11.   放射能汚染で健康が害される環境での労働を拒否すること、拒否後も不利益取扱を受けないこと。

以上

 

 

 

はだしのゲン・紙芝居

出版物の紹介


はだしのゲン
『わたしの遺言』
 中沢啓治 著

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