23言語まで翻訳・出版された「はだしのゲン」の前で勢揃いした翻訳者たち (2016年2月18日、コンフォートイン広島大通り会議室にて)
プロジェクト・ゲン結成20周年記念・「翻訳者の集い」の報告
「はだしのゲン」ロシア語版、英語版の翻訳ボランティアグループ、プロジェクト・ゲン結成20周年を記念した「翻訳者の集い」が2月18日、広島市内で開催され、はだしのゲンをひろめる会は「翻訳者の集い」を後援した。
最初に参加者全員が自己紹介しました。挨拶する英語版の翻訳者 西多喜代子さん
集いにはアラビア語、英語、シンハラ語、朝鮮語、中国語、ベトナム語、ポーランド語、ロシア語の翻訳者16人と故中沢啓治氏夫人の中沢ミサヨさんら8人のゲストが出席し、各言語の翻訳時の苦労した点やエピソード、現在の出版状況、今後の計画など話し合った。
<中沢ミサヨさんの挨拶>
翻訳者の皆様のおかげで「ゲン」は世界を駆けめぐっています。「ゲン」が海外にはばたき、主人は外国の読者から手紙や反響が届くと、自分の思いが伝わったととても喜んでいました。言葉や文化が違っても平和への思いはひとつであり、「ゲン」がつなげていると思います。
写真左から中沢ミサヨさん、アラビア語の翻訳者 マーヒル・エルシリビーニーさん
<翻訳検討会>
最初にアラビア語のマーヒル・エルシルビーニーさんが、翻訳時の苦労した点を中心に報告した。マーヒルさんは日本語や日本の文化でアラビア人には分からない表現がたくさんあることを紹介した。特に荒っぽい方言が出てくる広島弁や当時の替え歌、擬態・擬音などの翻訳が難しいことや、砂漠地帯には海がないから魚介類を知らない、木がないから蝉の声も知らない、サッカーは人気スポーツだが、野球は全く知らないなど想像以上に困難な条件下で翻訳作業を進めていることに驚いた。
<マーヒルさんが提案したこと>
「はだしのゲン」は中沢さんが原爆被害を事実にもとづいて描いた漫画であるが、他言語で出版する場合はそれぞれの国の文化を考慮して翻訳する必要がある。そのためには「はだしのゲン」用語集や漫画に描かれている歌や替え歌の説明書があればよい。これまでの出版物は白黒印刷であるが、カラ―印刷もできないだろうか。今後は翻訳者同士のメーリングリストを起ち上げて翻訳内容について相談できればよい。
集いの進行役を務めた中国語版の翻訳者 坂東弘美さん
<話し合い>
中国語:広島弁の方言や訳しにくい言葉を列挙し、その解決策をまとめた資料をつくり、翻訳者の共通認識を図った。
英語:マーヒルさんと同じところで翻訳に苦労した。共感した。日本語は縦書きだが、英語に翻訳すると横書きになるため、吹き出しのスペースを広げることにした。
朝鮮語:朝鮮語の場合は日本語と文法も同じで、隣国でもあり、文化の違いはほとんどなかった。共通文化が多いことを改めて知った。北は朝鮮語、南は韓国語であり、「はだしのゲン」の会話は韓国語の留学生に協力を依頼し、私は本文を朝鮮語で翻訳した。翻訳の作業を通じて南北の分断の苦しみを痛感した。
シンハラ語:シンハラ語の文法は日本語と同じ、しかし文化の違いや方言には大変苦労した。また公では使えない乱暴な言葉の翻訳も難しい。
ポーランド語:日本語は短いため翻訳すると長くなってしまうので、吹き出しの文字を小さくし、本の体裁をB5版に変えた。宗教の違いも難しかった。
ロシア語:広島弁にはやはり苦労した。替え歌の翻訳も難しかった。
ベトナム語:同じアジア圏であり、文法や宗教も同じであまり問題はない。ベトナムでは目上の人を尊敬し、親兄弟などには必ず敬語を使う習慣があり、注意した。
<中沢ミサヨさんの発言>
「はだしのゲン」は小学3年生以上を対象に描かれた漫画です。中沢は実際に体験したこと、見たことを描いている、ここを描かないと原爆の恐さが分らないとギリギリのところまで描いている。なぜ日本は原爆を落とされたのか、なぜ原爆を止められなかったのか、当時の社会的条件や歴史を交えて描いたものです。
広島弁の方言の汚さが指摘されたが、あの時代に実際に使われていた言葉をそのまま使った。替え歌もその頃の子どもたちが歌っており、その時代の雰囲気を出すために使ったものです。
参加者全員による記念撮影
<現在の出版状況/今後の計画>
ポーランド語:10巻まで出版
朝鮮語:10巻まで出版、2015年8月までに約20000セット普及
中沢啓治著『わたしの遺書』も翻訳・出版し、現在3刷
シンハラ語:2巻まで出版、現在3巻、4巻の出版準備中(いずれも自費出版)
ベトナム語:1巻を翻訳し、出版はこれから
ロシア語:改訂版を10巻まで出版
イタリア語:1巻~3巻まで出版
スペイン語:10巻まで翻訳、4分冊にて出版予定
中国語:10巻まで翻訳済みだが、中国国内の出版事情から出版は困難な状態だが、
台湾版での翻訳・出版が可能となり、今年初夏には出版見込み
<「翻訳者の集いin広島」を終えて >
マンガ『はだしのゲン』
英語版、ロシア語版翻訳編集グループ
プロジェクト・ゲン
代表 浅妻南海江
2月18日、プロジェクト・ゲンの活動20周年記念行事「翻訳者の集いin広島」を無事終えることができました。
中沢啓治先生が遺していかれた貴重な作品、『はだしのゲン』は志を同じくする人たちの手によって40年以上もの時を経た今もなお脈々と受け継がれ、世界に広まっています。
中国語繁体語版はやがて台湾から出版されることが決まっています。またアラビア語版も全巻翻訳間近とのことを伺っています。
これで国連の公用6か国語の英語、フランス語、スペイン語、ロシア語、中国語、アラビア語は全巻出版、または出版見込みということになります。
ゲンの今後の世界での活躍が期待されるところです。
更に南米、東南アジアの言語にも翻訳が広がっていくことを願っています。
平和を国是とする日本が戦争する国になろうとしている今、国内的にもゲンの果たす役割は重要性を増しています。
多くのマスコミが取材してくださいました。報道を見て戦争を知らない若いお父さん、お母さん方、また子供さんがゲンに興味を持つ時、「集い」の果たした役割は大きいものと考えます。
ゲンの体験が世界の若者の共通の認識になることを希い、翻訳言語の広がりに期待しています。
「集い」の後、2言語からのオファーがありました。早速、著作権者と代理店へお知らせしたことを付け加えてご報告と致します。
<翻訳者の集いを取材された報道機関> テレビ局3社、新聞社6社
・RCC広島テレビ
・テレビ新広島
・日本テレビ
・東京新聞(東京)
・共同通信(大阪)
・朝日新聞
・読売新聞
・中国新聞
・毎日新聞
*北陸中日新聞2016年2月22日付「こちら特報版」(PDF:392KB、PDF:432KB)に大きく報道されましたので紹介します。