南京に羽ばたいたゲンの翼
中国語版翻訳者 坂東弘美
私は1999年から、中国国際放送局(CRI)の日本語部に2年半ほど赴任していました。その時、娘のような年齢の王小燕さん(以下燕)と仲良くなり、2人で紫金草合唱団第1次南京公演の取材に出かけました。北京で放送局主催のコンサートも実現。私の住む名古屋では「河村市長南京虐殺否定発言を撤回させる会」の音楽会でも合唱団に歌ってもらいました。
その後、燕と私は『はだしのゲン』の中国語訳を決意し、総勢7名の翻訳グループと7年の歳月をかけて翻訳。2016年に台湾で無事出版できましたが、中国本土では国家の許可が下りていません。この世界情勢で、焦りは深まるばかりです。
しかし、日本語教育をしている大学や高校、図書館などには、「研究書」として、英語版や日本語版を入れてもらうことを思いつき、今まで本土全国で30ヶ所ぐらいの大学や図書館に「はだしのゲンをひろめる会」を通して寄贈することができています。
話は戻りますが、今回第13次の紫金草合唱団演奏会が南京で行われ、燕と久々に南京で顔を合わせました。中国は変容し、メディアはチャイナ・メディア・グループとして統括され、北京からは総勢16名の取材陣を南京に派遣、燕はまとめ役も担って、とても忙しそうでした。
今回の企画で「田家炳高校」を団員たちと訪れた時のことです。同行していた燕がたまたま校長先生の傍近くにいた私にカメラを回しながら「今よ! 校長先生にゲンのこと話したら!」と、私が思いつきもしなかったことを言うので、私はハッとして、ゲンの名刺を渡して寄贈しても問題はないかと尋ねました。答えは「没問題」で即OK。
帰国後、「ひろめる会」から、早速今年度初の海外寄贈図書として、日本語版と英語版を1セット(10巻)ずつ南京市に国際郵便で送ってもらいました。
〝平和の花 紫金草〟の仲立ちで、ゲンは中国に再び旅立ちました。私は今、翻訳者の皆さんや関係者の皆さんのご協力で、「ゲンの翼」というYouTubeを発表していますが、これからも世界中に羽ばたき、核の恐ろしさと平和の大切さを伝えていきたいと思います。