岩波書店『図書』2019年7月号の64頁「こぼればなし」(編集後記)に1982年7月に刊行された『はだしのゲンはピカドンを忘れない』が岩波ブックレットの中で最も読み継がれていると紹介されています。
「こぼればなし」全文をHPに転載します。
◎岩波ブックレットがこの5月に刊行1000号を迎え、7月から全国の主要書店で記念フェアが展開されます。
◎岩波ブックレットが創刊されたのは1982年4月。「核戦争の危機を訴える文学者の声明」として「反核――私たちは読み訴える』がその第一冊目でした。
◎2冊目以降の書目をみてみますと、豊田利幸『核戦略の曲り角――危機はここまできている』、大江健三郎『広島からオイロシマヘ「関屋綾子『女たちは核兵器をゆるさない――〈資料〉平和のための婦人の歩み』と、深刻化する東洒冷戦を背景にした核の脅威に対する当時の危機感が伝わってきます。
◎そうした最初期の企画のひとつ、82年7月に刊行された中沢啓治『はだしのゲンはピカドンを忘れない』は、現在まで読み継がれるベストセラー。累計23万部を数える本書は、これまで刊行された岩波ブックレットのなかで、もっとも多くの読者に迎えられることになりました。
◎これにつづく第2位は、 19万部のリヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカー『荒れ野の40年』1986年、新版2009年)、第3位は一七万部の井筒和幸、井上ひさし、香山リカ、姜尚中ほか『憲法を変えて戦争へ行こうといぅ世の中にしないための18人の発言』2005五年)となつています。
◎この数年に刊行きれたもののなかでで、書店での売れ行き良好な書日の五冊を紹介しますと、高山佳奈子『共謀罪の何が問題か』2017年)、佐藤学『学校を改革する――学びの共同体の構想と実践』2012年)、想田和弘『日本人は民主主義を捨てたがっているのか?』(2013年)、本田由紀『社会を結びなおす――教育・仕事・家族の連携へ』2014年)、斎藤貴男『安倍改憲政権の正体』2013)です。
◎これまで刊行された岩波ブックレットの目録をみてみますと、その多くが私たちの社会が抱える様々な課題に対するアクチュアルな問題意識に支えられた企画群によって構成されていることに、あらためて気づきます。安価でハンデイな小冊子ですが、それゆえに、そのテーマの核心を突き、争点の背景、押さえるべき基礎、ポイントに読者を導いてくれる――市民による読書会や勉強会でテキストとして広く迎えられてきた理由は、そういうところにあるのでしょう。
◎この記念フェアにあわせて、『スマホだけでは物足りない― ブックレットの底力』と題した小冊子をご用意しています。最相葉月さん、前川喜平さん、望月衣塑子さん、鈴木邦男さん、武田砂鉄さん、斎藤美奈子さんといった方々に、おススメのブックレットをご紹介いただきました。是非とも店頭でお手にとっていただければと思います。
◎映画『居眠ヶ磐音』も好評の佐伯泰英さん。その「惜礫荘の四季」が本号で終了となります。7年に渡る連載、ご愛読ありがとうございました。岩波現代文庫の一冊として11月に刊行の予定です。ご期待ください。
(岩波書店『図書』2019年7月号・64頁・こぼればなし)