新版「広島の木を見にいく―被爆樹木が見る未来」のご案内
広島の市井の歴史と被爆の実相を学ぶ
「物言わず、ただそこに在るだけ」──そう思っていた樹木が、実は平和の象徴であり、被爆の証言者でもあることを知ったのは、ドキュメンタリー作家・石田優子さんの著書『広島の木に会いにいく』を読んでからでした。
原爆で瀕死の傷を負いながら(ときに2世、3世と命を繋ぎ)生き続けるその姿は、被ばくした人たちに生きる希望を、命を落とした人たちには祠として安息の場を与えてきました。その体には、一体どんな傷痕と記憶が刻まれているのでしょうか。
本書は、一つひとつの被爆樹木が持つ物語と、それを守り育んできた人々の営みを丁寧に取材し、まとめた良書です。2015年の初版から10年を経て、全面的に改稿し写真を追加した新版が、今年6月に出版されました。平易な優しい言葉で綴られており、「広島」を知る入門書としてもおすすめです。
戦後・被爆80年。戦争・被爆体験を語ってくださる方はとても少なくなりました。記憶を受け継ぎ、伝えていく世代である私たちには、真実に向き合う力(知る力)と想像力がこれまで以上に求められています。
自ら語ることのない被爆樹木に向き合うのも同じこと。私たちが意識して目と耳を開き、学び、想像力を働かせなければ、その記憶を知ることはできません。そんな取材対象にじっくりと時間をかけて向き合い、自問自答を重ねて紡がれた石田さんの言葉には、知る力と想像力を広げるヒントが散りばめられています。
被爆樹木のことを知り、大切に守っていくことは、広島の市井の歴史や被爆の実相を学ぶこと。平和な世界をつくること。そう教えてくれた本書が多くの方の手に届きますように。
そして、本書を読んだ後には「広島の木に会いにいく」ことはもちろん、石田さんが監督したドキュメンタリー映画『はだしのゲンが見たヒロシマ』もぜひご覧ください。漫画『はだしのゲン』の作者・中沢啓治さんが、自身の被爆体験とゲンに込めた思いを語る作品です。誇張や演出なく、中沢さんの思いを丁寧に伝えたい、そんな石田さんの真摯な姿勢がこの映画にも貫かれています。
(核戦争を防止する石川医師の会事務局・小野栄子)


