平和教材からの「ゲン」削除決定について/日本被団協事務局長・談話

2023年2月28日

談話

平和教育教材から『はだしのゲン』を削除した広島市教育委員会の決定について

日本原水爆被害者団体協議(日本被団協)

事務局長 木戸季市

 今回の広島市教委の決定を聞いて、驚き、あきれています。

 被爆者(5歳、長崎被爆)として、長く学校(小中高大院)で学び、ほぼ40年間教育の場(短大教員)で生きてきた者として、怒りを禁じ得ません。

 削除を決定した広島市教委、審議にあたった13人の識者、教育専門家に教育とは何かを根本から考える人はいなかったのでしょうか? 一人でも教育とは何かわかっている人がいたらこんな結論を下すことはなかったでしょう。

 今回の改訂にあたって「『漫画』の一部を取り上げるだけでは、被爆の実態に迫りにくい」として、「被爆者の体験談に差し替えることにした」と報道されています。悲しくなります。原爆が人間に何をもたらしたか全く分かっていないと感じるからです。

 被爆者の体験談は多くの場合、個人の体験です。『はだしのゲン』は多くの被爆者の体験を基に被爆者が苦しみ、生きてきた全体像を描いています。『はだしのゲン』を削除し「被爆の体験」に差し替えることは原爆被害の全体像を見せない結果をもたらしかねません。真逆の判断です。

 教育委員会のみなさんは日本被団協の『原爆被爆者の基本要求』の「原爆がもたらしたもの」をお読みになったでしょうか。被爆者が何を求めて生き、たたかってきたかを学び検討されたでしょうか。

 さらに看過できない根源的な問題があります。一つは教育行政の責務は教育条件の整備であり教育内容への介入はできないということです。もう一つは人類の歴史を知り学ぶとはどういうことかという問題です。「児童の生活実態に合わない」ことを理由に過去の出来事を学ばせないことは過去の事実を学ばせず人類の歴史を学ばない行為です。これほど人類史を冒涜する行為があるでしょうか。

 密室の会議で表現の自由を抹殺する行為は戦前の言論弾圧の歴史、菅内閣の学術会議会員の任命拒否を思い起こさせます。密室、理由なき結論の押し付けは戦争への道につながります。許せません。

 広島市教委は今回の措置を撤回し、広島市民、被爆者に広く開かれた公開の新しい会議を設け、改めて審議されるべきだと考えます。広島市教委の猛省を求め、談話とします。

印刷用PDF:134KB

◎2月28日、広島市教育委員会宛に送付された日本被団協事務局長の談話です。県内在住の西本多美子さん(元石川県原爆被災者友の会会長)から提供いただきました。

 

はだしのゲン・紙芝居

出版物の紹介


はだしのゲン
『わたしの遺言』
 中沢啓治 著

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